シュレーディンガーの猫に見る“観測者”のパワー

はじめに

最近「ねこ耳少女の量子論」を読みました。いや、決してふざけた本ではないです。なんとねこ耳少女が量子論について熱く且つわかりやすく語ってくれる、量子論入門書としてはすばらしい本でした。おすすめです。
さて、この本の中でシュレーディンガーの猫”という有名なたとえ話が出てきます。
簡単に言うと、

    • 前提として量子の状態は観測してみないとわからないとする(量子の不確定性)
    • 箱の中に放射性物質と猫を入れる
    • 放射性物質が崩壊すると猫は死んでしまう
    • 放射性物質が崩壊するかどうかは事前に分からない(量子の不確定性により)
    • よって箱を開けてみないと猫の生死はわからない
    • つまり箱を開けるまで、猫は半分死んで半分生きていることになる

という話です。これによってシュレーディンガーって人が「量子の状態が確率で解釈されるなんてバカげてる!」という話を伝えたかったらしいのですが、私の注目したい点はこの事例における“観測者の影響力”です。
今日はこれについて少し思うところを整理してみたいと思います。

Webサービスのユーザを観察する

Webサービスでは特にですが、実際に行動を起こしているユーザを捉まえて「なぜあなたは今この商品を買ったのですか?」と問うことは非常に難しいです。
店舗なら、商品片手にレジ前に並ぶ人の肩をたたき、「すいませんが…」と数分時間をもらえば済むことですが、Webサービスの場合ユーザはどことも知らないモニタの前に座っています。苦肉の策としてアンケートやインタビューを実施しても、結局行動を起こした時のことを完全に覚えているわけでもないですし、所詮その場の意見に留まってしまいます。

そこでアクセスログ解析の出番です。ユーザがサイト上でどのように行動していたかを実際のデータを見ながら分析し、このユーザはこう思ってここをクリックしたに違いない、などと推測します。しかし、これもやはりデータを見て推測するに留まるため、ユーザが本当に考えていたこと、やりたかったことがはっきりとわかるわけではありません。

ユーザ像は観察者が作る

そんなこんなでユーザビリティテストという手法(その場でサイトを利用してもらい、行動を観察する手法)が重宝されます。私も既に数える気が起こらないほどの人数を相手に調査を実施してきました。
しかし、やはりいつも解せないのが「横に私がいることや、私がしゃべる言葉一つ一つがこのユーザに大きな影響を与えて結果を曇らせてはいないだろうか」という点です。
シュレディンガーの猫の話に触れたことでより思いを強くしたのですが、Webにおいては「結果を解釈する観測者(観察者)が力を持ちすぎているな」と思うのです。


つい最近ハックルベリーさんが「なんではてな運営側は自分に話を聞きに来ないのか」とおっしゃっていましたが、おそらくその話も“観測者(観察者)の影響力”で説明できます。
ハックルベリーさんがたくさんのはてなブックマークはてなスターを稼いできたことは事実ですが、その間ハックルベリーさんがおこなったユーザ観察は「ハックルベリーさんのユーザ観察結果」と解釈されてしまう可能性が高いと思われます。
一方はてな運営側も、もちろんアクセスログ解析やユーザビリティテストでユーザ観察を行っているはずです。はてな運営側としては、その結果を「はてなのユーザ観察結果」として今後活用していきたいでしょう。

これは私の意見ですが、Webサービスの評価やユーザ像は誰が観測(観察)したかによって多少なりとも変化すると考えています。多くのサービス運営側も私と同様のことを考えていると仮定するなら、どうせバイアスがかかるなら管理できる身内のバイアスに留めたいと考えるのではないでしょうか。
はてな運営側の方々がハックルベリーさんの話を聞きにこない理由がこれだとは言い切れませんが、もし私がはてな運営側にいたとしたなら、あまり知りもしない他人の解釈に意味を持たせて活用することよりも、今まで自分たちが行ってきた観察結果の活用を優先するだろうなと思います。
※とはいえ、ハックルベリーさんにあいさつや友好的なインタビューを実施することは、サービスの一環として大きな価値があると思うので、私的にも現状には疑問がありますが。
【追記】後日、はてなの副社長川崎さんが会いに行かれたようで、私としても安心しました。


シュレーディンガーの猫からいつのまにかハックルベリーさんの話になってしまいましたが、言いたかったことは単純で、「Webサービスにおいては観察者がユーザ像に大きな影響を及ぼしてしまっているなぁ」ということです。

今後どうすればいい?

それなら今後どうなっていくべきなのでしょうか。私は今のままで良いかなと考えています。
バイアスというのは傾向がありますから、サービス運営側でバイアスを認識し、管理している以上、ある段階でそのバイアスを調整する方法が導出されます。
私の仕事場でもそのような方法論が存在しますし、それのおかげで徐々にバイアスによる結果の振れ幅は小さくなっています。

シュレーディンガーが猫をたとえに使って伝えたかったことも、「観測するまで存在自体が不安定になるような事例があってはおかしいだろ!もっと量子論はしっかりしたものであるべきだろ!」というお話のようです。結局観測者が量子の状態を決めてしまうほどの力を持ってしまうような話は科学者として受け入れられなかったのでしょう。

Webサービスにおいても、実際に存在するユーザのユーザ像を観察者が勝手に解釈してしまってはまずいと思うので、調査時に存在する小さなバイアスを今後徐々に無くしていきたいな、と思います。
結局観察者の力なんて適切な方程式に数字を放り込む程度がちょうど良いんですよね。


参考リンク
>>ねこ耳少女の量子論
>>シュレーディンガーの猫wiki
>>ハックルベリーに会いに行く(ハックルベリーさんのブログ)

おわりに

最近仕事が忙しかったことや、新しい分野の勉強を始めたこともあってブログ更新をお休みしていました。申し訳ないです。少し余裕も出てきたので、週2くらいのペースでゆるく再開したいと思います。お付き合いいただける方はどうぞよろしくお願いします。
また、これを機に文体やレイアウト、文言ルールなどを今日以降のエントリから少し改善しようと思います。過去のものは手を入れたくないのでそのままですが。
もし見難い部分や気になる点がありましたら、是非コメントにてお知らせ下さい。すぐに検討したいと思います。