WEBサイトがファッショナブルであることのリスク

WEBサイトは鑑賞するものではなく使うもの

ここ何年かで、デザインに凝ったWEBサイトが多くなったと感じます。特に海外サイトでは質感を紙や木のように変化させたサイトや、Flashでストーリーをなぞる様なサイトが多々見られます。
私自身、そういったサイトを鑑賞するにあたって「へぇ、おもしろいなぁ。きれいだなぁ。」と思うことはしばしばあります。

しかしながら、いざそのサイトを使えるかと言われると、正直ストレスとの戦いです。どこを押せるのか、どこを読めば良いのか、PCモニタに罵声を浴びせながら最終的には「まぁいいや」と離脱してしまいます。
そしてやはり、WEBサイトの多くは使うために訪れるものです。サイト自体を鑑賞するために訪れるユーザは少ないのではないでしょうか。(サイトにある文章や動画を鑑賞するユーザはいても、その鑑賞対象はサイト自体ではないはずです)

私の感覚で言えば、ファッショナブルなサイトであればあるほど正直「使えない」ことが多いです。もちろんそのデザインに楽しさを覚えるあまり、「使う意欲が増す」ケースもあります。されど、趣味に合わないデザインであればファッショナブルであるが故の「使えなさ」がより印象に残る形となり、結果本当にイライラします。

私はこれを「WEBサイトがファッショナブルであるが故のリスク」と捉えています。
今日はこれについて思うことをつらつらと…。

ファッショナブルなWEBサイトとは

ファッショナブルなWEBサイトというものは、以下3点で定義しています。

    • サイトの見た目が先進的かつおしゃれである。
    • 上記のようなサイトの見た目を達成するために各要素の配置、大きさ、質感を定義している。
    • その結果サイトを一つの美的作品として表現しようとしている。

これは私の勝手な定義であるため、この内容に異論のある方がいるかもしれませんが、一旦今回の対象サイトは以上のような条件に当てはまるものとします。

さて、とはいえ文章で定義したところで具体物がなければイメージもし難いと思います。私がファッショナブルなサイトだと思ったサイト例を以下に2つ紹介します。(海外モノは英語がわからない人に正確に評価していただけない可能性があるため、勇気を出して日本のサイトを選びました。)

  • 事例1:隙間広告社 SKIMA


会社のイメージをそのまま世界観にしてサイトを作っていますね。この雰囲気が好きな人にはたまらなく面白いサイトですし、どこを押したらどうなるのかワクワクしながら利用できるかと思います。
しかし、この会社の名刺をもらって「サイトで会社概要を確認してみよう」と訪問したユーザにとって、この世界観が好みでない場合は「目的が達成できない使えない(その上、好みでもない)サイト」と酷評されてしまう可能性が高いでしょう。
>>隙間広告社 SKIMA


こちらはiPhoneメタルギアソリッドの紹介サイトでしょうか。デザインも世界観も面白いのですが、やはりそのために生じているわかりにくさ、操作の難解さを打ち消すほどにこの作品を好きでない限りは多少イライラしてしまうでしょう。
もちろんそういったコアユーザのみを相手にしている、という話なら言うことはないのですが。
>>METAL GEAR SOLID TOUCH


つまり、上記のようにファッショナブルなサイトは、ユーザにとって「特別気に入られる」か「使いにくくてイライラする」かを「ユーザの趣向性との親和性」に依存しすぎているケースが多いように感じられます。
もちろんその世界観を気に入ってくれるユーザにとっては、印象に残りやすいおもしろいインターフェースや質感によってプラスの影響も大きくなるでしょう。
しかし、おもしろくて斬新な世界観であればあるほど、それを気に入ってくれるユーザのセグメントも狭まってしまうのではないでしょうか。そして「該当サイトの世界観を気に入ってくれるセグメント」は「該当サービス・商品・会社を気に入ってくれるセグメント」と必ずしもイコールではないと思います。

対象となるサービス・商品・会社を気に入ってくれるであろうユーザに最大限アプローチできること、使ってもらえることが目的であるならば、ファッショナブルなサイトを作ることは大きなリスクを抱えていると言わざるを得ません。
それでいてそのリスクを代償に得られるメリットは「ファンをもっとファンにする」といったユーザからの深い支持を得られるといった点でしょうか。
ファッショナブルなサイト制作を検討する際には、上記のようなリスクとメリットを理解しておく必要がありそうです。

目的を考えて方針を検討しよう

一部の親和性の高いユーザのファン化を一層推し進めたい場合、ファッショナブルなサイトはありということでしょうか。事例のうち、コナミのサイトについてはこの方針にあてはまる戦略的サイトであると言えるかもしれませんね。
しかし隙間広告社のケースは、サービスのターゲットユーザを一部取り逃してしまっているのではないか、と不安を感じずにはいられません。(仕事相手を選べるほどに依頼者が殺到しているなら別ですが)

ある程度のマスユーザを相手にサービスを考えているなら、無難に「すっきりとした使いやすいサイト」を制作するほうが成果を生むのだろうな、と私は思います。